和食の作法

鍋物や煮物をおいしく感じる
季節になりました。
今回は和食に欠くことのできない
コンブだしのあれこれを
ご紹介します。





 
料理の味を決める「コンブ」 天然の旨みを、だし調味料でより立体的に

 日本料理の世界ではよく「だしこそ命である」といわれます。なぜ、それほどまでに重視されるのでしょうか。
 料理におけるだしの役割は、各素材の持ち味を引き出して全体の調和を図り、さらに風味を醸し出すことにあります。オーケストラの「指揮者」にも似た、その重要な働きが「だしこそ命」の言葉を生み出したわけです。和食のだしといえば一般 にはコンブ、カツオ(鰹節)、イリコ(煮干し)を指します。とくにコンブだしは刺身や天ぷら等の一部の料理を除き、煮物、鍋物、汁物、うどん・そばと、あらゆる料理に使われます。
 素材も料理法も手を尽したのに、味がいま一つ決まらない…。こんな時はだしを、中でもコンブを見直してみてはいかがでしょう。全てをコンブだしで仕上げる精進料理を見てもわかるように、コンブの旨みはとりわけ深いものなのです。

コンブひとくち知識
[歴史] コンブの語源は一説では、アイヌ語の“コンプ”だと言われています。江戸時代中期に北海道と大阪を結ぶ航路が拓かれた後、コンブは関西を中心に広まり、現在も特に大阪・京都等で愛用されています
[栄養] 牛乳の約39倍の鉄分と約6倍のカルシウム、コレステロールや血圧等を抑えるアルギン酸等を含んでいます。だしをとった後のコンブも工夫して食べましょう。
[保存法] 湿気が大敵。直射日光を避け、密閉容器に保管します。時折コンブに見かける丸い穴は、ウニが食べた跡で、虫のせいではありません。ご安心を。

 海の中のおいしい成分がギュッと凝縮したようなコンブの「旨み」は、主にグルタミン酸によるものです。これに甘み成分であるアラニンやマンニット、アルギン酸等が合わさって、あの奥深く、ふくらみのある味と香りを構成しているのです。コンブの表面 に吹き出る白い粉はそんな旨み成分の結晶です。ちなみに「旨み」は英語で言い表しても「UMAMI」で、繊細な感性を持つ日本人ならではの独特の味覚。「和食の味の原点」といっても過言ではありません。
 天然のコンブだしは、それだけで十分においしいのですが、しっかりした味わいを好まれる方は、市販のだし調味料を併用すると効果的です。コンブベースのだし調味料は、野菜(トマト・ブロッコリー・白菜ほか)・肉・魚から抽出したグルタミン酸をベースに、貝のコハク酸や椎茸のグアニル酸等、さまざまな旨み成分をプラスしたもの。これを天然のコンブだしに加えることで、旨みと香りが増幅され、より立体的なおいしさを創り出せます。まずは上質のコンブを選んで天然だしをとり、その旨みと香りを認識。次に、だし調味料を加減しながら加え、好みのだしをつくってみてください。

 


味の違いを押さえて
使い分ける
おいしいコンブだしの取り方
 コンブを選ぶといっても、味はどれも一緒なんじゃないの? と、お思いではありませんか。実はコンブにはいろいろな種類があり、味や使い方が微妙に異なるのです。
 コンブの主な産地は北海道です。しかし生育地はほぼ決まっていて「尾札部(おさつべ)」「知床(しれとこ)半島」「礼文(れぶん)島・利尻島・稚内(わっかない)沿岸」「日高沿岸」等の数ヵ所。同じ北海道でも海水の温度や潮の速さが違い、これが味と香り、だしの色に微妙な差をもたらします。コンブは植物学上ではマコンブ(尾札部産)、リシリコンブ(知床半島、礼文島・利尻島・稚内沿岸産)、ミツイシコンブ(日高沿岸産)に分かれますが、料理界では生育地の名で区別 されることが多いようです。またこれらの、いわゆる「だしコンブ」とは別に「煮て食べるコンブ」として「長(なが)コンブ・厚葉(あつば)コンブ」(釧路・根室沿岸産)があります。ポイントはそれぞれの昆布の特徴を把握して、できれば料理ごとに使い分けること。



 特徴・使い方は下記の表に掲げましたので、参考にしてください。
 コンブだしの取り方には、コンブだけを素材として使う「水出し法」と「煮出し法」、コンブと鰹節からとる「一番だし」があります。いずれもごく簡単です。
■水出し法(水2Lに対しコンブ50g)
コンブの表面の汚れを布巾で、白い粉が落ちない程度にとります。後は鍋に水とコンブを入れて10〜12時間置くだけ。旨みがじんわりと溶け出した、鍋物に最適なだしがとれます。
■煮出し法
分量と下処理、鍋に入れるまでは水出し法と同じです。あとは火にかけ、沸騰する寸前にコンブを引き上げてできあがり。クセ(海草臭さ)のない、あっさりとした煮物向きのだしになります。
■一番だし(水2Lに対しコンブ 40g、鰹節 60g)
煮出し法でとっただしに、盃1杯の水を加えて沸騰を止め、鰹節を一気に加え、すぐに火を消して布で漉します。あらゆる和食に使える高級だしです。
*
 さてコンブだしの要点をかいつまんでご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。今年の冬はコンブに大いにこだわって、いつもとは違う“湯気のたつ料理”にチャレンジしてみてください。

 
水出し
煮出し
一番だし

■尾札部産
 上品な甘みの清澄なだしがとれます。羅臼コンブより淡泊で、利尻コンブより塩気が少なく、大阪で特に人気です。
フグちり・タラちり・うどんすき等、比較的淡泊な味わいの鍋料理、寄せ鍋・鶏の水炊き等、一般的な鍋料理に。 魚の煮つけや野菜の煮物等に。 会席料理の碗ものや汁もの、うどん・そば(関西風)、玉 子焼(関西風だし巻)等に。
*とろろこんぶや塩昆布等にも加工されます。

■知床半島産
 別名は「えながおにこんぶ」。味・香り共に濃厚で、黄色みがかっただしがとれます。
濃厚な味わいを活かし、キムチ鍋や常夜鍋(だしにニンニク・ショウガ片を加え、豚肉とホウレンソウを具とし、ぽん酢で食べる)、カキ土手鍋、カモ鍋等、個性の強い鍋料理やおでんに。 青背の魚の煮つけ、フキ等の香りの強い野菜の煮物に。 うどん・そば(関東風)、みそ汁等に。

■礼文島・利尻島・稚内沿岸産
 白口浜コンブより肉質がやや固いものの、上質で香り高い、澄んだだしがとれます。京都で頻繁に用いられます。
湯豆腐・カニすき・フグちり・うどんすき・寄せ鍋・鶏の水炊き等の鍋料理全般 に。 魚の煮つけや野菜の煮物等に。 とくに上品な味わいが求められる京風会席料理、うどん・そば(関西風)、玉 子焼(関西風だし巻)等に。

*やや強めの塩気を活かし、乾燥状態のものを小さく切って
 千枚漬にするほか、京風漬物にも利用されます。


■日高沿岸産
 繊維質が柔らかく、煮上がりが早いのも特徴。
井寒台や冬島で採れた上質のものは、だしをとって
良し、 煮て食べて良しの万能タイプです。
【だしで使う場合】
 煮物、汁もの、鍋物、
 麺類等、幅広く利用可能。

【煮て食べる場合】
 昆布巻、佃煮等。
【煮て食べる専用】
 昆布巻、佃煮、おでん、
 サラダ、揚げ昆布等。




あんかけ茶碗蒸し
上にのせた具とあんで彩りよく。
あんも卵液もだしで味が決まります。

■材料(4人分)*写真は3〜4人分
3個
だし汁 2&1/4カップ
薄口しょうゆ 大さじ1
少々
だし汁(煮出し) 1カップ
薄口しょうゆ 大さじ2
みりん 大さじ2
水溶き片栗粉 適宜

カニ肉、セリ
(さっと茹でて食べやすく切る)

各適量

ゆり根(薄味で煮ておく)

適量

■作り方

  1. を合わせて卵液を作り、こし器でこし、器に流し入れ、蒸気の上がった蒸し器に入れて蒸す。
  2. の調味料を鍋に入れて火にかけ、沸騰したら水溶き片栗粉を加えてとろみをつける。
  3. 蒸し上がった1. の上に2. をかけ、の具を彩 りよく盛る。

うどんすき
関西風の薄味だしで、魚介と野菜をふんだんに。
素材の味がひきたちます。

■材料(4人分)*写真は4人分

白菜

1/4株

春菊 1束
白ネギ 1本
タケノコ水煮 1/2個
生シイタケ 4枚
銀杏 12個
金目鯛 4切れ

エビ

4尾

8カップ
昆布 10cm角1枚

みりん、酒

各1/2カップ弱

薄口しょうゆ

大さじ5

小さじ2〜3

ゆでうどん 4玉
レモン 適宜

■作り方

  1. 鍋に水と昆布を入れて10〜12時間置き、水出しを取る。昆布を取り出し、鍋にAを入れて火にかけ、一煮立ちさせる。
  2. 白菜、春菊、白ネギ、タケノコは食べやすく切り、シイタケは石づきを取る。銀杏は串に刺し、金目鯛はさっと湯通 しをする。エビは背わたを取る。
  3. 1. を火にかけ、煮立ったら2. の材量を適宜入れて火を通 し、煮汁ごと器にとっていただく。お好みでレモン汁をかけていただく。


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