探究
和食の本場
味わい深き和食の三都物語

料理界で「和食の本場」とうたわれる、
大阪・京都・加賀。
三都の味の特徴を探り、
その違いを食卓に活かすヒントを
お届けします。

「和食」の一言で括られがちな和の味わい…。
実際は地域によって異なる奥深いものです。
天下の台所「大阪は薄味」
 江戸時代、京都とともに上方と呼ばれた大阪は経済の中心「天下の台所」で、「食いだおれ」と言われるほどの食文化を育みました。
 大阪湾に面し、瀬戸内の魚介や京野菜・茶、兵庫県・龍野の醤油、土佐の鰹節、北海道の昆布等、各地の名産物が集積しました。それらの品物を扱う商人の町だけあって、発想は合理的。豪華なものを愛する一方で、食材を大切に扱い、無駄なくとことん食べ尽くすといった気風が見られます。



 味の基本は昆布と鰹節のだしを効かせた「薄味」。だしの旨みをベースに塩味の強い淡口醤油を控えめに使い、素材の持ち味や色合いを活かすのが特徴です。
 代表的な料理としては、節約精神の極ともいえる塩鯖のアラと薄切り大根を使った「船場汁」、商人がハレの日に食したうどん入り茶碗蒸し「おだまき蒸し」等があげられます。



 海から離れた盆地にあり、冬は寒く夏は暑い京都。
 都としての千年の歴史の中で宮中料理(有職料理)が生まれ、これに茶道の影響を受けた懐石料理、寺院で育まれた精進料理等の要素が加わり、和食の原点と言われる京料理へと発展しました。
和食の原点「京都は滋味(じみ)
 宮中のお膝元だけに食材は豪華だと思われがちですが、内陸ゆえに海の幸は乾物や塩干物が主体。その一方で肥沃な土壌と名水を背景に、柔らかく甘味のある「京野菜」や、豆腐や湯葉等の大豆加工品の名品を育んできました。
 味の基本は「滋味」。乾物のうま味をそのままだしとして京野菜を炊く等、「海と山の出会いの味」が京都らしい味とされ、味付けは大阪よりも濃いめです。
 その本来の味を今に受け継ぐのが「なすとにしんの炊き合わせ」「かぶら蒸し」といったおばんざい。華麗ではない地味な料理にこそ、京料理の真髄が隠されているのです。


百万石の山海の幸「加賀はコク」
 豪雪の北陸の都・加賀は、日本海側が交易の表玄関だった昔、国内外を結ぶ海の道の要衝として栄えました。
 加賀百万石の前田公の産業奨励策により、米をはじめ、新鮮な魚介や山の幸を豊富に産出。恵まれた食材は、地理的に近い京都の食文化と融合して独自の加賀料理を育みました。
 味の基本は「コク」。これを生み出しているのがイカやイワシを発酵・熟成させた魚醤(ぎょしょう)の一種「いしる」です。冷凍技術のない昔、豊漁時の魚を無駄なく活かすための知恵であり、しょっつるやナムプラーと同系統の調味料です。アミノ酸を大量に含むいしるは調味料兼だしとして重宝され、魚や野菜の煮炊き、刺身等に使われます。



 また、上方とは異なる適度な甘さとまろやかさを備えた「うまくち醤油」も特徴。北陸の厳寒を乗り切るには、旨味の濃い味付けが好まれたのかもしれません。
 代表的な料理は「いしるの貝焼き」「治部煮(ぢぶに)」等です。

今日はだしがよく効いた薄味の大阪風、明日はコクのある加賀風――。
本場の味の違いを知れば、たとえば煮物一つにしても、その日の気分で味付けを変えることができ和食のバリエーションがぐんと広がります。
ここではそんな楽しみにつながる、各地の味のポイントをご紹介。
『膳』ならではのヒントで秋の食卓をより美味しくしてみましょう。
おだまき蒸し
■材料(4人分)
うどん 2玉
鶏ささみ 2本
しめじ 50g
かまぼこ 4枚
ぎんなん 8個
三つ葉 適宜
3個
だし汁 2カップ
みりん 小さじ2
薄口醤油 小さじ4
小さじ1/3

■作り方

1. うどんは醤油少々を振り、下味をつける。鶏ささみは筋を取って一口大のそぎ切りにし、しめじは小房に分ける。
2. 卵は割りほぐし、あらかじめ合わせておいたAを注ぎ入れ、泡立てないように混ぜ合わせて、こす。
3. 器に1. の具材とかまぼこ、ぎんなんの1/4量と卵液の1/4量を入れる。残りも同様に作る。
4. 蒸気の立った蒸し器で約15分蒸し上げる。三つ葉を散らす。
 一般の濃口醤油より塩分が2%ほど強い大阪の淡口醤油。その名の通り色が淡く、味にクセがないので、素材やだしの旨み・香り・色を損ないません。上手に使うと料理がプロっぽく仕上がります。
野菜の炊き合わせ等、煮汁を含ませつつ色鮮やかに仕上げたい料理、かけうどん・茶碗蒸し・すまし汁等、だしの風味を活かしたい時に最適。使い方は「ごく少量にとどめる」のがコツ。小サジで少しずつ加え、その都度味見して調節します。ちなみに魚や肉等、匂いの強い食材の調理には用いません。
なすとにしんの炊き合わせ
■材料(4人分)
身欠きにしん 2本
なす 2本
サラダ油 適宜
だし汁 2&1/2カップ
1/2カップ
砂糖 大さじ3
みりん 大さじ2強
醤油 大さじ2弱

■作り方

1. 身欠きにしんは米のとぎ汁につけ、毎日米のとぎ汁を替えながら3〜4日つけて完全にもどす。腹骨とえらを取り除き、中骨は骨抜きで抜く。煮立てた番茶に入れて弱火で30分茹でて臭みと脂を抜き一口大に切る。
2. なすはヘタを落として縦半分に切り、皮目に切り込みを入れ一口大に切り、さっと油に通す。
3. 鍋にAと1. のにしんを入れて煮、にしんがほぼ煮えたら2. のなすを加えて煮る。煮汁ごと器に盛る。
 身欠きにしん・干しだらといった塩干魚介(えんかんぎょかい)、湯葉・大豆等の乾物をだし代りにして野菜と炊くのが京都流です。乾物独特の塩味や旨みが野菜にしっとりなじみ、昆布や鰹節のだしとはまた違う、深い滋味と出会えます。
相性が良いのは「なすとにしん」「干しだらと里いも」「湯葉とフキ」「大豆とにんじん」です。塩干魚介は水で戻し、茹でこぼしたものをだしとしますが、大根や蕪(かぶら)、ごぼうとも良く合います。甘味を出したい時はみりんを加え、辛味(塩味)は大阪と同じく淡口醤油で調節します。
いしるの貝焼き
■材料(4人分)
タテ貝柱 4個
舞茸 適宜
しめじ 適宜
春菊 適宜
大さじ2 大さじ2
だし汁 大さじ1

■作り方

1. 舞茸、しめじは小房に分け、春菊はザク切りにする。
2. 大きめの貝殻(ホタテや鮑など)に1. と貝柱1/4量ずつ盛り、網の上にのせてAをかけ、火にかける。
火が通ったらいただく。
具材は白身の魚や火の通りやすい野菜などお好みのものでアレンジして下さい。
鮑の殻を使う場合は、穴の部分を小麦粉と水を練り合わせたものでふさいで下さい。
 和食を越えたアジア的な味覚を秘めた「いしる」。煮物・鍋物・おでん・麺類のだしをはじめ、炒め物・焼き物・漬け物の調味料、さらに刺身の醤油がわり等、多彩な利用法が魅力です。
だし、調味料、醤油がわり、いずれも「隠し味程度に少量使う」のがポイントです。昆布だしや鰹だし、中華風の炒め物等、仕上げに数滴加えると、旨みが立体的にふくらんでコクが出ます。魚醤(ぎょしょう)のクセが嫌でなければ量は多くしても構いません。多めに入れた時は豆板醤(とうばんじゃん)等の辛味を加えるとエスニック風の味が楽しめます。

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