すべて味わう
〜食べ物を慈しみ、健康を育む〜

2003年の特集は「健康」がテーマです。
春の話題は、食材をまるごと食べる「全体食」。
食べ物を司る「陰陽」の話もまじえながら、
元気な体づくりの秘訣をお届けしましょう。

「陰」と「陽」
 温かな陽差しに、生きものが目覚め、動き出す春。古来、「木の芽どき」といわれるこの季節は、生命の成長を促す一方、病原体の活動も活発になり、体調を崩しやすいといわれています。
 そこで注目したいのが、東洋医学に伝わる「全体食」の考え方です。全体食とは、身の部分だけでなく、たとえば野菜なら、皮・根・葉等、魚なら頭・目玉・尾(いわゆるアラ)等、「1つの食材をどこも捨てずに、まるごと味わい尽くす」ことです。
 全体食のメリットは、「体内の“陰”と“陽”
のバランスを上手に保ち、健康を維持できる」点にあります。
 野菜のホウレン草を例にすると、私たちが普段食用としている、地上に出ている葉の部分が「陰」、捨ててしまう地下の根の部分が「陽」にあたります。
 このように陰・陽の違いが生じるのは、地球上の生きものは重力の影響を受けているから。細胞のレベルで考えると、空へ向かって伸びる葉の部分は、のびのびした性質の比重の軽いものになり、根の部分は比重の重い締まった性質のものになります。
 一見、空に近い葉が「陽」のような気がしますが、食べ物としてとり込んだ場合、葉は身体を冷やします。身体にとっては「陰」に働くというわけです。魚や鶏など、動物は植物よりも複雑ですが、やはり陰と陽の部位があり、身体全体でバランスを保っています。

全体食で理想の「中庸」に
 人体は陰陽の影響を受けます。陰性の強いものばかり食べていると、血が末端にまで行き渡りにくくなり、冷えやすい身体に。逆に陽性のものばかり食べていると、ほてりやすい身体になってしまいます。
 理想は陰と陽の中間に位置する「中庸」を保つこと。これを簡単に実現するのが
“陰”も“陽”もすべて味わう「全体食」なのです。
 興味深い話があります。ガンや心臓疾患、糖尿病などの生活習慣病に悩むアメリカ合衆国が、病気の原因は食生活にあるのではないか、と世界の食生活を調査しました。
 その内容は1977年に公表され、なんと「理想的な食生活は元禄時代以前の日本にある」と結論づけられていたのです(「マクガバンレポート」)。
 食べ物が豊かでなかった昔は、野菜なら皮や茎、根もすべて食用とし、知らず知らず身体を中庸に保つ「全体食」を実行していました。
 人は、他の“生命”をいただくことで自分の生命をつないでいます。食べ物を残さず食べることは、他の命への感謝の気持ちを示すことでもあります。食べ物を今まで以上に慈しむ健康づくりを始めてはいかがでしょうか。


食べ物にはすべて陰陽があります。
それぞれの働きを知って、バランスの良い食生活を心がけましょう。
冷の陰・温の陽
 食べ物は部位ごとに陰と陽に分かれます。が、一つの物、つまり全体として捉えた場合にも陰、陽、中庸のいずれかに分けられます(表)。簡単に言うと「細胞や血管を緩め、体を冷やすのが陰」「細胞や血管を引き締め、体を温めるのが陽」「中間にある理想のバランス食が中庸」です。部位を選ばず、全部食べて健康を保つ全体食のように、元気のポイントは陰・陽・中庸、すべての食べ物を偏りなくバランス良く食べること。「ステーキに野菜サラダ」「刺身にワサビ」等の組み合わせが、なぜ良いのか? 陰陽を考えると、よくわかります。

旬でない食材も調理で中和
 一概には言えませんが、たとえば野菜の場合、暑い地方や夏にとれる作物は陰、寒い地方や冬にとれる作物は陽に傾きます。炎暑で体調を崩しやすい夏に、体を適度に冷やすナスやトマトが旬を迎える…。自然は本当によくできていますね。今は冬でも夏の野菜が味わえたりしますが、あくまでその季節にとれるもの、旬のものをいただくのが健康の基本です。ただ冬場の夏野菜でも、陽性の強い自然塩で味付けしたり、調理法を工夫することで、陰の度合が中和され、体の冷え過ぎを防げます。夏場の冬野菜等、逆の場合にも同じことがいえます。


陰の食べ物か、それとも陽か。その判別は相対的なものだといえます。たとえば豚肉はセロリに比べると陽性の強い食べ物ですが、鶏卵と比較すると、陰性です。このように陰陽の別は、ある食べ物を、他の食べ物と比較した際に、はっきりするものなのです。おおむね陰だ、陽だ、ぐらいは言えても絶対的なものではありません。

まだまだ肌寒い、花冷えの季節。
「陽」食材の煮込みで体をホカホカに。
玉子&肉の煮込みと一緒に、ぜひどうぞ。
陰陽バランスを正常にする爽やかな一品。




玉子と豚ばら肉の煮込み
■材料(4人分)*写真は1人分
豚ばらかたまり肉 400g
4個
玉ネギ 2個
人参 1本
生姜(薄切り) 1かけ
白ネギ 1/6本
6〜7カップ
1/4カップ
醤油 大さじ3&1/3
砂糖 大さじ2&1/2
サラダ油 大さじ1/2
木の芽 適宜

■作り方

1. 玉ネギはくし切り、人参は乱切りにする。豚肉は3cm角に切り、卵は茹でて殻をむく。
2. フライパンにサラダ油を強火で熱し、豚肉の表面を焼いて取り出す。
3. 鍋に豚肉とAを入れて煮立て、あくを取る。弱火にして約1時間煮る。
4. 3. の生姜、白ネギを取り出し、酒を加えて10分煮る。ゆで卵と玉ネギ、人参、Bの調味料を加えてさらに約15分煮る。
5. 器に盛り、木の芽を飾る。
豆腐とトマトのサラダ
■材料(4人分)
木綿豆腐 1丁
トマト 1個
セロリ 1本
レタス 1/3玉

■作り方

1. 豆腐は水気を切って1.5cm角に切る。
2. トマトは湯むきをして角切りにし、セロリは薄切りにする。
3. 1. 2. を器に盛り合わせる。

◎おすすめドレッシング
ワサビドレッシング

酢、油、醤油、砂糖、おろしワサビを合わせたもの



 陽性が強いのは「堅焼き」以下、「揚げる」「炒める」「焼く」。「加熱によって食べ物(食材)に含まれる水分を蒸発させ、堅くする調理法」ほど、陽が強くなるといえそうです。
 これは上の『陰陽の例と特性』の表に掲げた「陽の特性」と深く関わっています。ちなみに中庸の状態をもたらすベストな調理法は「煮る」「ゆでる」です。

《味付けは?》
すでに述べた自然塩や味噌、醤油等、収縮作用のあるナトリウムを含む調味料が陽となります。

 陰性が強まるのは電子レンジ等で調理した時です。なぜなのか、不思議な気もしますが、電子レンジは食べ物の水分を蒸発させるのではなく、マイクロ波で振動させて内部から温める器具。それで陰の特性である「水分の多い柔らかい仕上がり」になると考えられます。また「蒸す」も水分を活かす陰の料理法です。

《味付けは?》
白砂糖やみりん、酢等、拡散する働きのある、甘い系、酸っぱい系の調味料が陰となります。

陰陽のバランスを保ち、健康な体をつくってくれる全体食。
人気野菜のダイコンで「丸ごと味わう」を始めましょう!
◆中程[ほぼ中庸]
整腸をはじめ、活性酸素や発ガン物資を分解する各種酵素がたっぷり。皮にはビタミンCが集中しています。

【料理法】
皮をむかずに輪切りにし、おでんやフロフキ、ブリ大根、味噌汁の具に。皮をむいたら、その皮を刻んでキンピラやサラダに。
◆葉[陰]
ビタミンCが白い部分の約2倍。ガンを防ぐビタミンAやカロチン、強壮のカルシウムも豊富です。

【料理法】
細かく刻んで炒め物や汁の具に。陽の自然塩、味噌で味付けして中庸に近づけます。
◆先っぽ[陽]
中程と同様、体にいい酵素や食物繊維を大量に含んでいます。

【料理法】
辛みが強いのでおろして薬味的に。厚揚げ(陰)やそば(中庸)に合わせるといいでしょう。
◆首[やや陰性]
青みを帯びた首部分には腸内をきれいにし成人病を予防する食物繊維等がぎっしりです。

【料理法】
おろして天つゆの薬味に。合わせるなら、魚の天ぷら(陽)が理想的。
浅漬けにも(自然塩使用)。
 ダイコンそのものは、ほぼ中庸の食べ物ですが、部分でみると、陰性に傾くところや陽性の強いところ等に分かれます。全体をまんべんなく食べてこそ、理想的な中庸が保たれる、と言えるでしょう。
 普段食べない皮や先っぽも今日からは捨てずに。ダイコンに限らず、土から身を守る皮や栄養を吸収する先っぽ(根)は植物にとって重要な器官です。それだけにしっかり組成されていて、栄養学的にも優れた効果があるのです。部分ごとに料理法を工夫して、すべてを美味しく味わってください。
キャベツの芯[陽]・外葉[陰]
芯は強壮や美肌に効くビタミンC、外葉はガン予防のカロチンを多く含んでいます。みじん切りにしてギョウザの具、千切りにしてお好み焼きの具にすれば、堅さも気にならず美味しく食べられます。
ネギの根っこ[陽]
根っこを含む白い部分は血行促進や殺菌作用のある硫化アリルが豊富。花粉症の鼻づまりを緩和する精油成分も含んでいます。よく洗って細かく刻めば、味噌汁の具や野菜炒めの香りづけに使えます。
ニンジンの皮[やや陰]
皮にも抗ガン作用のカロチンをはじめ、眼精疲労を回復するビタミンAがたっぷり。飛び交う花粉で目がショボショボする今の季節に最適です。少し厚めに皮をむき、浅漬けやキンピラにします。
魚のアラ[頭cやや陰][尾・ヒレ・エラc 陽]
頭・尾・ヒレ・エラ等の「アラ」は身の部分よりコラーゲンやビタミン類が豊富。美容美肌におすすめです。お吸い物に使う時はウロコをとって湯にくぐらせ、冷水につけて汚れを落とすのがコツです。

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