禅食のこころ
自然の恵みへの慈しみ健康を育む命の膳

肉や脂肪の過食は生活習慣病を招くもと。
禅宗から生まれた精進料理は
「危ない食生活」を一掃する鍵です。
体の芯から元気になりましょう。

心身の健康を保つ
 「さうじもの(精進(しょうじん)もの)はとても簡素だ」。『枕草子』にも見られるように、わが国の精進料理の歴史は平安時代以前に遡るといわれています。
 もともと中国の禅宗から始まった料理で、「精進」とは仏教用語で「ひたすら仏道修行に励むこと」。これに「動物を殺してはいけない」という殺生戒(せっしょうかい)、僧侶の肉食を禁じる肉食戒(にくじきかい)の教えが加わり、精進料理は「肉類・魚介類を使わず豆・野菜・穀類だけで作る修行用の食事」を意味するようになりました。
 自分の命をつないでくれる他の命(自然の恵み)に感謝しつつ、いただく精進料理。その食事観は禅寺に伝わる「五観の偈(ごかんのげ)」(※1)によく示されています。中でも注目されるのは第四観です。「精進料理はいわば“良薬”であり、肉体の枯死(こし)を防ぐもの」とハッキリうたわれています。そこには「食事とは単に空腹を満たすものではなく“健康な生命を養う源”である」との考えがうかがえます。
質素? 事実は逆
 農耕民族の日本人は本来、肉食性ではなく穀菜食性です。内臓器官等の仕組みも穀菜食に適した造りになっています。つまり穀菜食を中心にしてはじめて健康が保たれ、生きる力が出せるのです。精進料理は私たち日本人に最適といっても過言ではありません。
 質素なイメージを抱きがちですが、栄養学的にはむしろ逆です。朝早くから夜遅くまで修行する禅僧。そのハードな一日を支える食事だけに栄養バランスが著しく優れています。
 実際、植物たんぱく系(豆腐)、ビタミン・ミネラル系(海藻・野菜)、カロリー補給系(根菜・油)の各食材がうまく組み合わされ「元気で長生き」の要素がたっぷり。限られた食材を、できるだけ美味しくするために料理法も研究され、「炒める」「揚げる」(※2)等の技法、植物系食材(※3)を用いて動物性たんぱくの風味に似せる料理が編み出されました。
 何かと体調を崩しやすい、木の芽どきの春。今からの健康づくりにぜひ、精進料理の心を活かしてください。
※1: 五観の偈
禅寺の僧侶が食事をいただく時に唱える文言。北宗時代(10世紀頃)の中国で成立したという。
※2: 「炒める」「揚げる」
ゴマ油を使い醤油や味噌で味付けする。
※3: 植物系食材を…
豆腐を揚げる「がんもどき」、豆腐を焼く「雉(きじ)焼き」、ナスを焼く「鴫(しぎ)焼き」等がある。

「孫は優しい」に注目
 豆・野菜・穀類が主役となる精進料理ですが、とりわけよく使う食材があります。
それが左に掲げた「ま・ご・は・や・さ・し・い」です。体の働きを活発にしたり、病気に対する自然治癒力(免疫力)を高めたり、健康に良い食材ばかり。覚えやすいフレーズなので頭に入れておきましょう。

食膳を「5つの色」で彩る
 昔の禅僧は「まごはやさしい」等の食材を、その色合いから5つの色に分け、食膳にまんべんなく取り入れました。どれかに偏らず5色すべて使うことが絶妙の栄養バランスにつながるわけです。5色思想は医食同源を説く漢方の「薬膳」に相通じ「中国伝来の精進料理」をよく物語っています。
生活習慣病を撃退!
 肉や脂肪の摂取量が年々増加。糖尿病や脳・心臓疾患、ガン等にかかる危険性が高まっています。動物性たんぱくと脂質の多い現代食はカロリーこそ豊富ですが体への負担が大。消化吸収に必要なミネラル、栄養をエネルギーとして燃やすビタミン類・食物繊維が不足気味のため、体内に余分な栄養がたまり、病気の温床となります。精進料理はそんな現代食とまさに正反対。生活習慣病を遠ざける丈夫な体をつくってくれます。

驚異的な豆腐パワー!
■精進食材のトップスター
 精進食材で特に人気が高いのは豆腐や湯葉、高野豆腐といった大豆製品です。江戸時代にまとめられた『精進料理献立集』では、全献立のうち実に9割以上に登場します。豆腐なしに精進料理は語れません。

■超良質のたんぱく&脂質源
 人気の秘密は抜群の健康パワー。必須アミノ酸を含む植物性たんぱくと豊富なビタミン・ミネラルによる滋養強壮、植物性脂質による血液浄化が主な働きです。
 動物性と違って体に優しく作用するのが特徴です。

■ガン予防のエース!
 ガンの原因として最近「腸内環境の悪化」がいわれています。肉や脂肪の取り過ぎで大腸の中がドロドロになると悪玉菌が増えて免疫力が大幅に低下。発ガン物質等の毒素を吸収しやすくなります。
 話題の有効成分、大豆イソフラボンをはじめ、食物繊維たっぷりの豆腐は悪玉菌の増殖を抑え、腸の働きを正常にキープ。もう一つのガン要因とされる体内の活性酸素も除去し、ガンを効果的に予防してくれます。実際、豆腐等の大豆製品を多く食べる地域ほど、ガン発生率が低いとの研究報告があります。
他にもあるスーパーパワー
●アミノ酸ダイエット
 豆腐の豊富な必須アミノ酸は肝臓でたんぱく質に合成され筋肉を増やします。筋肉はエネルギー消費が高く、これを増やす(筋肉質になる)ことで健康的にやせられます。

●更年期障害予防
 歳を重ねると女性ホルモンの分泌が低下し、めまいや冷え、頭痛等の障害が起きます。女性ホルモンと成分の近い豆腐の大豆イソフラボンを摂ると予防・緩和ができます。

●ボケ防止
 動脈硬化で血流が悪くなると、脳への酸素・栄養供給が不足しボケの引き金となります。豆腐の植物性脂質は動脈硬化の原因となる悪玉コレステロールを解消します。

●糖尿病予防
 血糖値が異常に高まる糖尿病は高血糖でモロくなった血管から腎・神経障害、網膜症等を誘発します。豆腐は血糖値を抑え血管を丈夫にする成分を含んだ予防食品です。
大豆たんぱくの摂取と血中脂質の変化
  大豆製品を食べると血中の悪玉コレステロールが大幅に減って善玉が増える!
  ※HP『Solae(ソレイ)』
〜アンダーソンらによる臨床実験から〜
大豆イソフラボンの摂取と乳ガン発生率の関係
  大豆製品をほとんど食べない人の乳ガン発生率は「よく食べる人の2倍以上」
  ※HP『大豆・イソフラボン摂取と乳がん発生率との関係について』
〜厚生労働省研究班「多目的コホート研究」から〜

豆腐「半丁(約150g)」を毎日食べる!
それが健康のポイントです。
 

コツその一 肉・魚・香味野菜を避ける
コツその二 淡い味付けで食材の持ち味を
コツその三 食材はムダなく使い切る

押さえどころをきちんと
 精進料理はコツを押さえれば、家庭でも簡単に作れます。まず第一に肉と魚、ニンニク・ニラ・ネギ等の香りの強い野菜は使いません。精進らしくする最大のコツです。
 次に味付けは控えめに。大豆製品と野菜の繊細な持ち味が表に出るよう、辛味や甘味といった調味料は少しずつ使います。
 三つ目はムダを出さないこと。野菜なら、普段は捨てる皮・根っこ・外葉を汁の具や浅漬けにしてすべていただきます。「捨てずに活かし切る」は他の生命への感謝であり、食材の栄養をまるごと取り込む最善の方法です。
 では料理別のポイントを見てみましょう。

汁物や煮物のだしは昆布と干し椎茸が基本。鰹節は使いません。水1lに10cm角の昆布1枚と干し椎茸3〜4個を入れて3時間置きます。大豆やかんぴょうの戻し汁を適宜加えると一層深みが出ます。
だしを煮立てて野菜を入れ、砂糖(みりん)→塩→醤油の順で味付けします。味噌を使う時は一番最後に入れます。だしの量を野菜がかぶる程度にしておくと、味が決めやすく煮くずれもしません。

豆腐、芋、カボチャ、ナス、シシトウ、筍等を使います。火の通りにくい芋・筍はだしで煮てから焼きます。豆腐は1cm厚の短冊状にして表面をあぶり柚子味噌やゴマ味噌、木の芽味噌で食べます。

タネは旬の野菜です。揚げ油はサラダ油にゴマ油を適宜加えて香りを立てます。塩に抹茶・胡椒・山椒を加えた「付け塩」で、揚げたてをいただくのが精進風。もみじおろしの天つゆもよく使います。

裏ごし豆腐をすり鉢ですり、みりん・醤油・塩・酒で味付けする白和え、裏ごし豆腐の替りにクルミを使うクルミ和えが精進風。塩ゆでして下味をつけた野菜はよく水気を切り、食べる直前に和えます。

体にいいばかりでなく、おいしさの点でもゼッタイおすすめの精進料理。
大豆製品を使ったオリジナルアラカルトをお試しください。
湯葉を「揚げる&和える」の精進テクでしつらえた逸品です。乳製品を食べて悟りを開かれたというお釈迦様にちなみチーズを使用。パリッと揚った湯葉巻きを梅肉とひじきのタレがさっぱりと引き締めます。
豆腐と同等の健康パワーがある豆乳で新感覚のデザートに。ぷるんと固まった豆乳は舌ざわりなめらかで、まさにプリンのよう。きなこ風味の黒蜜とベストマッチして思わずニッコリです。
湯葉揚げひじき 梅肉和え
■材料(4人分)
湯葉(13cm×18cm) 4枚(16個分)
山芋(1cm拍子切り) 4個40g
チーズ(1cm拍子切り) 64g
(乾燥)ひじき 10g
キュウリ(輪切り) 2本
レタス(角切り) 100g
梅干し 2〜3個
青じそドレッシング 50cc
大葉(せん切り) 4枚
揚げ油 適宜

■作り方

1. 湯葉に山芋とチーズを別々に四方包むように巻いて、菜箸で押さえ付けて160℃の油で揚げる。
2. ひじきは水で戻して、さっと湯通しする。
3. 梅干しは種をとって、梅肉を包丁でたたいて、Aを混ぜ合せてドレッシングをつくる。
4. ボウルにひじき、キュウリとレタス、1.を混ぜ、3.で和える。
豆腐プリンきなこ 黒蜜がけ
■材料(4人分)
無調整豆乳 500cc
粉ゼラチン 10g
お湯 20cc
砂糖 40g
青きなこ(お好みで) 適量
黒砂糖 120g
80cc
砂糖 80g
水あめ 大さじ2

■作り方

1. 鍋に豆乳と砂糖を加えて60℃以上に熱し、お湯20ccでふやかしておいた粉ゼラチンを加えてよく混ぜる。
2. 1.をボウルに入れて、粗熱がとれたら、冷蔵庫で冷やし固める。
3. 黒砂糖はビニール袋を二重にしたものの中に入れて、めん棒で細かくたたく。
4. 鍋にAを入れて弱火にかけ、箸などでかき混ぜずに鍋を揺すりながら砂糖を煮溶かし、砂糖が溶けたら水あめを加えてさらに煮る。途中アクがでたらすくいとり、表面が乾かないように霧吹きをかけて30分位とろっとした状態になるまで弱火で鍋を揺すりながら煮る。
5. 器に2.をスプーンで盛り、4.の黒蜜と青きなこをお好みの量をかけていただく。
参考資料:日本豆腐協会公式HP、HP『精進料理に挑戦しよう!』

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