いのちの塩
海がくれた健康の糧

一日として口にしない日はない塩。
中でも、昔ながらの製法で作られた自然塩は
「生命を支える力」にあふれています。
今回は身近な塩にスポットをあてました。

体内を流れる“海”
 あらゆる生命の故郷、海。数十億年前、海から陸に上がった生き物は体内に「海と似た環境」を閉じ込めて旅に出ました。
 人で言えば血液や血漿(けっしょう)、胎児の育つ羊水(ようすい)がそれ。これらは実際、海水の成分と似ていて血液には1リットル中約9gの塩が溶けています。輸血用の血液が足りない緊急時、生理食塩水が代用されるのはこのため。塩はまさに空気や水、光と同じで、生命を保つのに欠かせません。
 海に囲まれたわが国では縄文・弥生時代から製塩(※1)が始まり、奈良時代には塩田の原形ができました。以来、海浜を利用した塩づくり(※2)が何世紀も続きますが1971年、海浜の工業用地化で塩田は廃止に。代わって登場したのが辛み成分の塩化ナトリウムを化学的に抽出した精製塩です。
 その後、塩専売制がなくなり('97年)、塩田などによる伝統的な製塩が復活。健康志向の中、さまざまな「自然塩商品」(※3)を見かけるようになりました。「生命を支える塩」とは化学精製塩ではなく、海から生まれた自然塩を指します。

元気を保つミネラル源
 自然塩には塩化ナトリウムだけでなく、化学精製塩にはない成分がたっぷり含まれています。マグネシウムやカリウム、カルシウムといった豊富なミネラル、60種以上の酵素・ビタミン類です。自然塩の健康成分は肉体と精神に働き、「毎日を元気良く過ごすエネルギー」を与えてくれます。こんな力を持つ物質は他にないため、昔の西洋では貨幣と同価値(※4)に扱われました。
 塩はよく「高血圧の元凶」と指摘されます。確かに摂り過ぎると、塩化ナトリウムが血管内にヘドロとして付着。血管内が細くなって血圧が上がり、ひいては心臓や脳などに重大な病気を招きます。
 ただ、ヘドロ蓄積の最大の原因は、塩よりむしろ、脂肪(悪玉コレステロール)の過食だと考えられます。自然塩は適量を守れば心配はなく、反対に控え過ぎると、頭痛やめまい、倦怠感、精神不安定ほか、体調不良に陥ります。
 あまりに身近すぎて、振り返ることのない塩。これを機会に自然塩の力を見直されてはいかがでしょう。


(※1)縄文・弥生時代から製塩:古代は海藻を天日で乾かし、それに幾度も海水をかけて塩の結晶を採取していたとみられます。これを「藻塩(もしお)」といい、『万葉集』等にも「藻塩やく」という言葉があります。自然塩のひとつで、現代でも藻塩法で塩を作っているところがあります。

(※2)海浜を利用した塩づくり:囲いをした砂浜(塩田)に満潮の海水を引き込み、しみ込んだ海水を天日乾燥させて塩を作る「入浜式塩田」などが代表的です。

(※3)「自然塩商品」:海水を原料にした化学精製塩以外の塩を指します(岩塩含む)。商品によっては「天然塩」と呼んでいる場合もあります。

(※4)貨幣と同価値:給与を意味する英語の「サラリー(salary)」は、塩の「ソルト(salt)」が語源。労働の報酬として、お金の代わりに貴重な塩を支給していた時代があったと考えられます。

体に溶け込むやさしさ
 下の円グラフをご覧ください。化学精製塩のミネラル分はほぼゼロ。これに対して自然塩には2割強ものミネラルが含まれています。この成分の違いが健康づくりに大きな差をもたらします。
 自然塩の各成分の働きは下表の通りですが、全体として【1】細胞の新陳代謝を活発にして体の働きを正常に保つ【2】胃液(塩酸)を作って消化を促し食欲を増進させる【3】神経や筋肉の緊張をやわらげる【4】体を温める(※寒冷地の人々が塩辛い漬物や味噌、塩干物を好むのはこのため)といった力があります。自然塩のミネラルパワーとはつまり「生きていくための活力」に他なりません。
自然塩の成分 体への主な働き
塩化ナトリウム 生きる力(エネルギー)を体の隅々にまで届け、自律神経を機能させます。「塩辛さ」を感じさせる味覚成分でもあります。
マグネシウム 心臓や腸の働きを活発にするほか、カルシウムと共に骨を作ったり、体液の酸性・アルカリ濃度を均一に保つ働きをします。
カリウム エネルギーの運搬を担い、自律神経を働かせます。また、体内の余分な塩化ナトリウムを外に出し、高血圧を防ぎます。
カルシウム 骨の形成をはじめ、細胞分裂や血液凝固に作用します。イライラや興奮の抑制など、精神を安定させる働きも注目されます。
「血液ミネラル」と言われ、体内に入ると血液中のヘモグロビン(赤血球)になります。動脈を通って全身に酸素を運びます。
亜 鉛 筋肉や皮膚を作るタンパク質の合成・代謝を司っています。病気に対する防衛力、「免疫」にも関係する重要なミネラルです。
マンガン 体内酵素の働きを活発にしたり、タンパク質の合成や代謝、性ホルモンの生産に深く関わっています。
体内に吸収後、脳・肝臓・腎臓・血液中に集まり、造血や酵素の活性化、タンパク質の形成を担当。若さを保つミネラルです。
リ ン 骨の中に蓄えられ、体液の酸性・アルカリ濃度を中性に保つ、活動エネルギーを体内に貯蔵するといった役割をこなします。
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海水 水素 酸素 塩素 ナトリウム マグネシウム
血液 水素 酸素 ナトリウム 塩素 カリウム
血漿 水素 酸素 ナトリウム 塩素 炭素
羊水 水素 酸素 ナトリウム 塩素 炭素
上は塩を作る海水と体液(血液・血漿・羊水)の成分を比較して、各々多い順に並べたものです。「人体には“海”がある」「塩分を補給しないと生命が維持できない」という意味が、何となくおわかりいただけると思います。
心臓・脳疾患の誘発を防ぐためにも塩化ナトリウムの摂り過ぎはご注意! たとえ自然塩でも「1日10g」が上限です。摂取量は年々減っていますが、それでも11gを超えているのが現状です。逆に過少摂取も前述の体調不良を招くので「1日1.3g以上」を目安にしてください。よく使う調味料の塩分量も示しておきましたので、ぜひご参考に。
主な調味料の塩分 ※大さじ1に対し
●薄口醤油・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.8g
●濃口醤油・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.5g
●ウスターソース・・・・・・・・・・・・・ 1.4g
●中濃ソース・・・・・・・・・・・・・・・ 1.0g
●ケチャップ・・・・・・・・・・・・・・・ 0.6g
●マヨネーズ ・・・・・・・・・・・・・・・ 0.3g
 
健康を基準にして選びましょう
 市販の自然塩や化学精製塩は、製造法の違いにより数種類に分かれ、ミネラル含有量も異なります。どれを選べば良いか迷ったら、自分の「健康状態」をモノサシにしてみましょう。
 たとえば日頃からミネラル水や野菜、サプリメント類でミネラル補給に努め、元気を維持している人なら、適度なミネラル量の「自然海塩加工」「天然岩塩」などで十分。というのもミネラルは、たくさん摂っても必要な分以外は尿・汗・便で排出されるからです。
 反対に食生活が不規則で普段のミネラル補給がままならず、疲れ気味の人は、ミネラル豊富な「自然海塩平釜」「自然海塩天日」などがおすすめです。
 いずれにしても「健康を考えるなら自然塩」。これが基本です。
「自然海塩平釜」
日本近海の海水を釜で煮詰めて作る自然塩です。天日にさらさず火力でじっくり結晶化するのでミネラル分は天日塩よりも多めです。
「自然海塩天日」
日本や中国、欧州各国など、世界中の「入浜式塩田」で、天日で乾かして作る昔ながらの自然塩です(上記※2参照)。
「自然海塩加工」
メキシコや豪州産の天日原塩(成分は塩化ナトリウムが大半)を海水で溶かしミネラル分を添加。釜で炊き直して作る自然塩です。
「天然岩塩」
欧州のアルプスなど、太古、海だった地層から採れる陸の自然塩。長い年月、陽にあたっているのでミネラル分は海塩より少なめです。
「化学精製塩」
イオン交換透析法という化学技術を使い、海水から塩化ナトリウムを抽出し結晶化した精製塩です。ミネラル分は含まれません。
「化学精製塩加工」
化学精製塩をミネラルを含む海水などで溶かし再結晶させた精製塩。元が化学精製塩のためミネラル分は自然海塩や岩塩より少なめです。
店頭で手に取った塩商品がどの種類なのか?自然塩の場合はラベルの名称欄か説明書きに「自然塩」または「天然塩」の記載が。天日と平釜の違いは説明書きに謳われます。自然海塩加工ならラベルの原材料欄に、海水とは別に「天日塩」または「輸入原塩」などと書かれます。岩塩は見ればすぐにわかります(主に欧州産)。化学精製塩は「食塩」の名で市販。化学精製塩加工は原材料欄に「食塩、海水」、説明書きに「ミネラル添加」などと記されます。
 
 
参考資料:「財団法人 塩事業センター」HP

 自然塩に含まれる各種のミネラルは、健康面だけでなく「味覚」にも大きく作用します。商品ごとに若干の差はあるものの、共通するポイントをあげると
化学精製塩と違い「塩辛さ」がマイルドで舌に刺さらない
旨み調味料にも似た独得の味わいがある
ミネラル分が魚や肉などの食材に浸透し持ち味を引き出す
野菜の場合は変色が抑えられ、みずみずしさも保てる
漬物・味噌・醤油に使うとミネラル(とくにマグネシウム)によって発酵が促され旨みが増す
こんな自然塩の特長を上手に活かせば、お料理の味がひときわアップします。日本料理における「プロの塩づかい」から、幾つかコツをまとめてみました。
 少し湿り気があって、指につきやすい自然塩。「煎り塩」は湿気を飛ばして使いやすくする基本テクです。自然塩を鍋か、油分を取ったフライパンに入れ、弱火でじっくり加熱。全体がサラサラになるまで、焦げないように煎ります。
【ふり塩】焼き魚にする時、煎り塩をたっぷり手に握って指の間からパラパラと振り掛けます。なるべく高い所から振るとまんべんなくかかります。他の素材にも使える技法です。
【飾り塩】鯛や鮎といった姿焼きで味わう魚はふり塩に加えて、尾やヒレ、頭などに塩を盛り付け、見栄えを良くします。
【べた塩】脂や水分の多い青背の魚はバットなどに多めの塩を入れ、身全体にまぶし付けます。塩が中まで浸透して美味しくなります。
 牛・豚・鶏などの串焼き(ソテー・ステーキ含む)では焼き上がる寸前、表面が固く締ってからふり塩を。焼く前の下処理で塩をしてしまうと、肉汁が抜けやすくなり、また火の通りが早まってジューシーさが損なわれます。
 酢の物、和え物、煮物を作る時は素材の野菜(キュウリ・フキなど)にふり塩をして、まな板の上でこすりつけ、さらに熱湯にサッと通して色出しします。味も見た目も断然良くなります。
紅茶に浮かべるレモンやオレンジ。カットする前に皮の部分を自然塩でよくもんで水で洗ってみてください。いつもの紅茶が一層香り高くなりますよ。
■材料(豚バラ肉1本分)
粗塩 2〜3kg
豚バラ肉
(かたまり)
  1本(約500g)
セロリの葉   2束分
白ネギ   適宜
■作り方
1. 中華鍋に底が見えなくなるくらいの塩を敷き、セロリの葉で包んだ豚バラ肉のかたまりをのせる。
2. 1.を塩で覆い、ふた(もしくはアルミホイルで覆う)をして弱い中火で約1時間じっくり焼く。塩がきつね色になったら火を止めてそのまま余熱で火を通す。
3. 竹串をさし、スッと通ればできあがり。塩から取り出してセロリの葉を取り除き、スライスする。皿に盛り、白髪ネギを散らす。
※お好みで変わり塩の山椒塩をつけていただいても風味が増し、おいしくいただけます。
 「塩釜風」に料理する贅沢な逸品です。肉と脂が混在するバラ肉の旨みを自然塩が素直に引き出し、惣菜はもちろん、酒肴や麺の具など、幅広く使えます。肉料理には特に岩塩が合うのでお試しを。
■材料(4人分)
【薬味】    
[山椒塩] 自然塩 小さじ3
花山椒 小さじ1/2
[七味塩] 自然塩 小さじ3
七味 小さじ1/2
[抹茶塩] 自然塩 小さじ3
抹茶 小さじ1/2
【天ぷら】    
●野菜(しし唐、椎茸、人参などお好みで) 適宜
エビ 4尾
[衣] 小麦粉(薄力粉) 1カップ
1個
冷水 1カップ
●鶏ササミ 2本
[衣] 片栗粉 適宜
卵白 適宜
道明寺粉 適宜
●白身魚 4切
[衣] 片栗粉 適宜
卵白 適宜
春雨またはみじん粉
(白・黄色・緑・ピンク)
適宜
■作り方
1. 塩はしっとりしている場合はフライパンで炒り、それぞれ花山椒・七味・抹茶と混ぜ合わせる。
2. 野菜は食べやすい大きさに切る。鶏ササミは筋を取り、一口大のそぎ切りにし、白身魚も同様にそぎ切りにする。
3. 小麦粉・卵・冷水を混ぜて天ぷら衣を作る。春雨は、はさみで1cmの長さに切る。みじん粉は混ぜ合わせておく。
4. 野菜、エビは天ぷら衣をつけて揚げ、鶏ササミ・白身魚は片栗粉をまぶしてから卵白を塗り、鶏ササミは道明寺粉、白身魚は春雨またはみじん粉をつけて揚げる。
5. 1.をつけていただく。
 ほのかな旨みや甘味のある自然塩は天ぷらやフライ、串焼きなどの「付け塩」にしても美味しく食べられます。山椒塩、抹茶塩、七味塩と幾つか用意すれば味も風味も変ってアクセントになります。

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