―“食”の世界を広げる地中海の風―

調理によけいな手間をかけず、
シンプルに素材の持ち味を活かすイタリア料理。
このベースとなる発想が日本料理に通じるせいか、
ここ数年、大人気をよんでいます。
今回はそんなイタリアンの魅力をご紹介します。

素材が育てた食文化




個性あふれる地方の料理

 調理法がシンプルで、魚介や野菜をよく食べる―イタリアと日本の共通点は、どこから生まれたのでしょうか。
 イタリアは地中海に突き出した“長靴型”の国。南北に長く、半島の中央を二千メートル級のアペニン山脈が貫いています。緯度的には、ローマが函館、長靴のつま先が新潟あたり。半島の付け根はアルプスで、北海道の北端・宗谷岬付近になります。
 以外にも北に位置するイタリアですが、気候は温暖。一年を通じて過ごしやすく、雨も少ない地中海性気候です。ローマと東京を比べると、夏の最高気温は東京より低く、冬の最低気温は高め。年間降水量は半分以下。
 この地理的条件と気候が、オリーブやフルーツ、チーズ、生ハム、魚介類など、イタリア料理に欠かせない数々の山海の幸を育んできました。“シンプルに素材の持ち味を活かせる”日本料理と似た点があるとしても不思議ではありません。

 イタリアの場合、一つの国としてまとまったのはわずか百年余り前。それまでは各地方が独立した都市国家でした。そのため、イラストに見るように、今も地方ごとに個性的な“食”が残っているのです。

食への情熱
 イタリアでは、外国料理はもちろん、国内の他の地方の料理店もめったに見かけないといわれます。国内外の料理を幅広く受け入れ、上手にアレンジしてしまう日本とはそこが少し違う点。イタリア人にはそれだけ故郷の味にこだわりがあるのです。
 故郷の味は、つきつめると「マンマの味(おふくろ=家庭の味)」。昼食は仕事を中断して家に帰り、家族揃って食べるのが原則です。忙しいから昼食は抜き…などということは、イタリア人の辞書にはあり得ないのです。幼稚園で給食がある場合も、多くはコースで出てくるとか。熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たくして食べる。「食のあるべき姿」を幼いうちから―生活においての“食”の位置づけが、ここからもうかがえます。
 そんなイタリア人が情熱を傾け、育んできたイタリア料理。そのエッセンスを日本の食卓にとりいれることで、私たちの食生活も、もっと豊かになるような気がします。


お洒落で美味しく、ヘルシーなイタリア料理。
手軽な素材を使って、その魅力を存分に味わえる
アイデアをまとめました。是非ご活用ください。

調理法

味つけ

【炒める】


オリーブ油にニンニクの薄切りを入れて材料を炒め、ハーブ塩(9参照)や刻みハーブをふりかけて仕上げます。
★材料:タコ、イカ、エビ、ナス、ピーマン、キノコなど。

【焼く】


下味として材料に塩、こしょう、ハーブをすり込みます。網で焼き、仕上げにオリーブ油をかけます。
★材料:スズキ、イサキ、肉類、ナス、ピーマン、カボチャ、ニンジンなど。

【焼いて煮る】


材料に塩、こしょうして小麦粉をふり、オリーブ油で焼きます。刻みトマトか、トマトソース(6参照)を加えて煮ます。


★材料:イワシ、サバ、肉類、ナスなど。

【揚げる】


材料に塩をふり、小麦粉をまぶすか、薄い天ぷら衣をつけ、オリーブ油で揚げます。仕上げにレモンを絞ります。
★材料:ハゼ、メゴチ、イカ、エビ、ホタテ、ピーマン、ナス、ヤングコーンなど。

【生のまま】


材料を適当な幅にスライスしてオリーブ油と塩をふりかけ、マリネに。ルッコラやバジルなどのハーブ、カリカリに炒めたニンニク、チーズなどをトッピングします。
★材料:カツオ、スズキ、イワシ、タコ、イカ、エビ、牛肉、馬肉など



【トマトソース】


トマトの水煮缶にみじん切りのニンニク、ハーブ、タマネギを加え、煮ます。
★米と煮てリゾットにしたり、魚介と煮てイタリア風煮込みに。そのままパスタにからめてもよい。

バルサミコ酢】


そのまま生野菜や生ハムに。また、煮つめて肉類や魚のソテーにかけます。風味が強調され、味が引き締まります。
※バルサミコ酢:ブドウを原料としたイタリアの高級醸造酢。香りが強く、まろやかな甘みが特色。

【ハーブ】


好みのフレッシュハーブをオリーブ油に漬けてハーブオイルにします。
(イタリアの3大ハーブ:バジル、ローズマリー、セージ)。


★炒めものやマリネ、パスタに使います。


粗塩に刻んだハーブを混ぜ、ハーブ塩にします。
★肉や魚の下味、ソテーやグリルの味付けに。香りよく仕上がります。

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料理の仕上げにフレッシュハーブを添えれば、グッとお洒落な盛り付けになります。

参考文献/『イタリア料理100のおいしいキーワード』(落合 務著/講談社)、
『前菜とパスタ』(山田宏巳著/中公文庫ビジュアル版)、
『イタリア料理の技法』(網本祐子編/柴田書店)


タケノコと菜の花の
オリーブオイルマリネ


日本の春野菜で作るマリネ。
トマトも加えて彩りよく仕上げます。

■材料(4人分)

ヒメタケノコ(ゆでたもの)2個
菜の花 1束

トマト 小1個
ハーブ塩 少々
オリーブ油 大さじ3〜4

■作り方

  1. ヒメタケノコは食べやすくスライスし、焼き網の上でこんがり焼く。
  2. 菜の花はさっとゆでて冷水にとり、水けを絞って3cm長さに切る。
  3. トマトはくし型に切る。
  4. 器に1.2.3.を盛り、ハーブ塩、オリーブ油をかける。好みでバルサミコ酢をかけてもよい。



ブリのバルサミコ酢風味


イタリア独特のバルサミコ酢と
ハーブを使った、簡単に作れる一品です。

■材料(4人分)

ブリ 4切れ
ニンニク 2片
塩・こしょう 各少々
ローズマリー 2枝

バルサミコ酢 1/4カップ
砂糖・醤油 各少々
オリーブ油 1/4カップ

■作り方

  1. ブリは食べやすく切って塩、こしょうし、ニンニクはスライスする。ローズマリーは一枝のみを粗く刻む。
  2. フライパンにオリーブ油を熱し、ニンニクとローズマリーを加える。ニンニクがきつね色になったらブリを入れて両面をこんがりと焼く。
  3. ブリに火が通ったらバルサミコ酢、砂糖、醤油を加え、煮つめながらからめる。
  4. 器に盛り、残しておいたローズマリーを添える。


食の神々 五

オリーブを生んだ知恵の女神
【 ア テ ナ 】
 「ギリシャ神話」によると、新しい町が作られたとき、その町の主護神の座をめぐって、知恵の女神アテナと海の神ポセイドンが激しく争った。そこで神々は、人間にとって、より必要な物を生み出した方に主護神の座を与えることにした。
 ポセイドンは、駿馬を大地からわき出させた。
 アテナは知恵を絞った末、たわわに実ったオリーブの木を茂らせた。
 結果は、アテナの勝利―神々はオリーブの方が、人間により多くの利益を与える、と判断したのだ。これがオリーブの起源であり、町の名はアテナにちなみアテネと名付けられた。
 また、オリーブ油は、後に黄金ほど価値のある液体ということで「液体の黄金」と呼ばれ、人間に計り知れない恵みをもたらすことになった。


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