食の楽しみを広げる香味・辛味の魅力

ほんの少し添えるだけで、
料理をぐんと引き立ててくれる薬味。
種類が豊富で、それぞれに個性があります。
今回は身近な薬味の特色や使い方、意外な活用法など、
“名脇役たち”のあれこれを紹介します。

多彩な薬味の世界




すぐに役立つ薬味ファイル

 「薬味」という言葉は中国から渡来しました。もともとは薬用となる食材が持つ「甘・苦・酸・辛・塩辛い」の5つの味の総称だったのです。それが次第に薬用食材そのものを指す言葉となり、室町時代には、日本で一般に手に入る薬用食材が生姜だったため、生姜が薬味と呼ばれるようになりました。そして、生姜は辛いものの代表であったので、いつしか「辛くて香りの強い食材」を薬味と称するようになりました。
 ヨーロッパやインド、東南アジア諸国等でも、「薬味」は昔から重宝されてきました。スパイス(香辛料)やハーブ(香草)がそれで、肉料理の臭み消しや食料の防腐、あるいは酷暑で減退した食欲を増進させるのに、今も広く利用されています。

 料理の味や香りがいま一つ物足りない…そう感じたら、このページを見てください。和食に欠かせない代表的な薬味をまとめました。

凡 例
臭み消し(魚/肉)
料理への一般的な使い方
薬効 


【 生姜(しょうが) 】

年中使える清涼感と温もり感


臭み消し(魚/肉)
甘酢漬け:寿司の添え物。
おろし:青背 の魚やイカの刺身、天つゆ、焼きなす、そうめん、冷やしうどん、冷奴。
絞り汁:汁物、肉料理全般。
極細切りの針しょうが:魚や野菜の煮物の天盛り。
健胃、風邪予防、体を温める

【 大蒜(にんにく) 】

料理全般に幅広く活躍
臭み消し(魚/肉)
スライスまたはおろし:カツオやアジのたたき、肉料理全般。
軽くつぶす:常夜鍋(豚肉とほうれん草の鍋)。

滋養強壮、疲労回復

【 葱(ねぎ)

最もポピュラーな“和”の薬味
臭み消し(魚)
小口切り:うどん、そば、湯豆腐、ちり鍋、冷奴、そうめん、ラーメン。
※切る時は細胞を壊さないようによく切れる包丁で。匂いが強すぎる時は水にさらすとよい。

食欲増進、疲労回復、体を温める

【 柑橘類(かんきつるい)
<ユズ、カボス、スダチほか> 】
冬料理を際立たせる酸味と芳香
臭み消し(魚)
絞り汁:焼き魚、鍋物や フグ刺しのポン酢、なます、湯豆腐のたれ、焼肉のたれ。
ユズの皮:汁物や芋等の煮物、茶わん蒸し。

疲労回復、風邪予防

【 茗荷(みょうが) 】

夏を感じさせる清冽な香り
臭み消し(魚)
薄い輪切り:青背の魚の潮汁やたたき。
細切り:刺身のつまやそうめん、冷しゃぶ。
甘酢漬け:魚の照焼きの添え物。

食欲増進

【 山椒(さんしょう)<粉・木の芽> 】
実も葉も使いみち多彩
臭み消し (魚/肉)
粉:うなぎの蒲焼、親子丼やそば等の鶏料理、麻婆豆腐。天ぷらの付け塩 に混ぜて。
木の芽(葉):両手でたたき、香りを立たせて吸物、茶わん蒸し、ちらし寿司。煮物全般の天盛り。

健胃、整腸

【 三つ葉(みつば) 】
  汁物や丼物を彩る緑の香草
そのまま:束ねて「結びミツバ」にするか、適当な長さに切り、雑煮やハマグリ等の吸物、茶わん蒸し、親子丼、鉄火丼等。あえもの。

精神安定

【 紫蘇(しそ) 】
生でも加熱しても香り爽やか
臭み消し(魚/肉)
そのまま:刺身のつま。魚・肉で巻いた天ぷら。
細切り:青背の魚のたたきやイカ刺し、ちらし寿司、そうめん、冷やしうどん、焼きうどん、パスタ料理。

疲労回復、咳き止め、利尿効果





【 梅(うめ)<梅干し> 】

郷愁誘う深みのある酸っぱさ


臭み消し(魚)
そのまま:雑炊やお粥。イワシ等の青背の魚の煮物(煮汁と一緒に煮る)。
梅肉酢(梅肉を裏ごし、醤油とみりんでのばす):ハモの湯引き。
梅肉をだしと醤油で割る:ニラ等のおひたし。
疲労回復、二日酔い、整腸

【 蓼(たで)】

鮎の味を活かす独特の香気
臭み消し(魚)
タデ酢(タデをすり鉢ですり、 少量のご飯と一緒にさらにすり、裏ごしして酢でとく):鮎の塩焼きなど焼き魚全般。

傷の治療

【 胡椒(こしょう) 】

世界で愛される香辛料の王者
臭み消し(魚/肉) 
粉:肉料理、魚料理、卵料理等、幅広い料理。ラーメン、焼そば等の麺料理。
※実をそのつどペッパーミルで挽くと香りがいっそうよい。

食欲増進、健胃

【 山葵(わさび) 】

刺身とそばの“最良の友”
臭み消し(魚)
おろし:刺身、寿司、ざるそば、冷やしうどん、カブラ蒸し(おろしたカブと白身魚の蒸し物にあんをかけた料理)、うざく(ウナギ蒲焼とキュウリの酢の物)等。
※辛味・香りを引き出すには鮫皮おろしがよい。(写真右参照)

消化促進、食欲増進

【 唐辛子(とうがらし) 】

  健康面でも人気の真っ赤な辛味
輪切り・粉・そのまま:白菜漬けやキムチなどの漬物類、きんぴらごぼう、ナスやダイコンの煮物。
もみじおろし(ダイコンにうめ込み、一緒におろす):鍋物、白身魚の薄造り。

食欲増進、抗酸化作用、ダイエット、体を温める

【 辛子(からし) 】
  和・洋・中に合うツンとくる鮮烈さ
練りガラシ:かつおの刺身、おでん、納豆、とんかつ、サンドイッチ、肉料理。シューマイ・春巻等の中華料理。
※カラシを練る際は力を込め、空気が入るようにすると辛味が際立つ。

食欲増進、利尿

【 海苔(のり) 】
  和食を引き立てる 滋味と潮の香り
もみのり・極細切り:湯豆腐、そば、冷やしうどん、そうめん、ちらし寿司、鉄火丼、親子丼、炊き込みご飯、イカ刺し等。

健康維持

【 大根(だいこん) 】
  食の進む、 程良い辛味と舌ざわり
おろし:鍋のポン酢、天つゆ、そば、焼き魚。
極細切り:刺身のつま。

消化促進



■材料(4人分)

鯛 4切れ
エビ 4尾
ハマグリ 8個
ホタテ貝柱 8個
鰯のすりみ 200g
白菜 8枚
人参 4cm
春菊 1束
玉コンニャク 12個
シイタケ 8枚
エノキダケ 1袋
生麩(紅葉) 8cm
豆腐 1/2丁

◇薬味
アサツキ(小口切り)
ショウガ(すりおろし)
スダチ(2つ割)
七味唐辛子  など

◇鍋だし
だし汁 6カップ
薄口しょうゆ 大さじ3
酒 1/2カップ
塩 適宜

 


海の幸のいっぱい入ったお鍋。
いろいろな薬味で味の変化を お楽しみください。

■作り方

  1. 鯛は食べやすく切り、エビは背わたをとる。ハマグリはよく洗い、鰯のすりみはよく練ってだんご状に丸める。
  2. 白菜、5ミリ角の棒状に切った人参と1/4量の春菊はさっとゆでる。まきすに白菜を並べ、手前に人参と春菊をのせてくるりと巻き、よく水けを絞り、ひとくち大に切る。
  3. 玉コンニャクは3個ずつ串を通す。シイタケ、エノキダケは石づきをとる。生麩は1cm幅、豆腐はひとくち大に切る。
  4. 土鍋に鍋だしの材料を入れて火にかけ、煮立ったら材料を適宜入れて火を通し、好みの薬味を加えていただく。

七味唐辛子の七味って?

薬味の意外な活用法

 麺類や丼物に付き物の七味唐辛子。この七味とは何でしょう?
 唐辛子と粉山椒、シソ、麻の実、黒胡麻をベースに、製造元の秘伝によりショウガや陳皮(ミカンの皮を干したもの)、青海苔などを加えた7つの薬味のようです。さまざまな味のハーモニーが麺類など、料理の美味しさを引き立てているのですね。



 薬味の中には、意外な用途に驚かされるものがあります。
 たとえばニンニクは、西洋料理のイメージが強いのですが、江戸時代の料理書には白身魚や鶏等の吸物、魚や獣肉のなますに添えるとよいと書かれています。コショウも同じく当時から大人気で、汁物や煮物、うどんの薬味として盛んに使われていました。また、ダイコンは辛味の強いしっぽ(先端)の部分をおろしにすると、戻りカツオ等の脂ののった刺身に実に良く合います。
 古くからあるこんな利用法にもチャレンジされてみてはいかがでしょう。



食の神々 八

命がけの薬草探し
【神(しんのう)農】(中国)
 「薬味」という字からわかるように、この言葉はもともと、薬草の味を意味するものだった。薬草の味を確かめ、人類に薬をもたらした神は中国の「神農」だ。神農は薬草となる草を探し歩き、手当たり次第にあらゆる植物を口に含み、自分の舌で味を試した。薬と毒は紙一重というが、一日に70種もの毒にあたった、とまでいわれている。まさに命がけで病気に効く草を探したわけだが、それでも死ななかった。
 死なずにすんだのは神農の身体が人のような生身ではなく、透きとおる宝玉でできていたからだとの説もある。日本では今でも薬剤関係者は「神農さん」を篤く信仰している。


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